introduction
小説を書いた後の道具箱 ルビ振り~複数サイト投稿まで
小説を書いていると、本文以外にも案外やることがあります。固有名詞にルビを振る、前の話の設定を確かめる、投稿先に合わせて記法を直す。書き終えてからも、さまざまな「めんどうな」作業が待っています。
そんな作業をまとめて扱える「小説エディタ」を作っています。
ブラウザで使えて、インストールやログインは不要。本文を書くほか、設定の整理、推敲、投稿用の変換、PDF・EPUB・Wordへの出力ができます。
ただ、「このエディタで執筆してほしい」とは思っていません。書き手の皆さんには、それぞれ使い慣れたエディタやメモ帳、ノートアプリがあると思います。それは、執筆の手を止めないための、大切な執筆環境です。
ですから、執筆も十分にできますが、この「小説エディタ」は、必要なときだけ開く道具箱としても育ててきました。いつもの環境で書いた原稿を持ってきて、気軽に使ってもらえたら嬉しいです。
たとえば、書き上げたあとにこんなときに開いてみてください。
- ルビや表記のばらつきを、まとめて整えたい
- 読み返して、気になる言い回しを見直したい
- 投稿先のサイトに合わせて、記法を変換したい
- 装丁や組版を整えてPDFやEPUBで出力したい
まずは使いどころを、後半では「どうしてこんな機能が増えたのか」を紹介します。
書く・読み返す:離れた場面を並べて編集する
「執筆」モードでは、一つの本文を複数のウィンドウで開けます。第3話、第6話、山場の第12話を並べ、それぞれの場所をそのまま編集できます。どのウィンドウから直しても、同じ本文に反映されます。
表示も使い分けられます。ルビや傍点の記法を隠して読み書きする「プレーン編集」、記法を確認する「原稿」、ルビや装飾を編集する「装飾」。横書き・縦書きの表示にも対応しています。文章に集中したいときと、記法まで確認したいときで切り替えて使えます。
メモを残す:本文に埋め込んで、あとで見返す
書きながら浮かんだ覚え書きを、本文中のその場所へ直接残しておけます。見せたいときは表示したまま編集し、気が散るときは隠したまま執筆に集中する。同じ原稿を、そのときの気分に合わせて切り替えられます。
タグを付けておけば、あとから「伏線」や「直したい箇所」だけをまとめて見返すこともできます。もちろんメモは、投稿や印刷などの最終的な出力には含まれません。本文を汚さずに、作業用の書き込みとして使えます。
画面の配置を、まるごと切り替える
推敲用に散らした窓、資料を並べた窓、印刷確認用の窓。目的が変わるたびに、開き直したり並べ直したりするのは手間です。
画面上部の「配置」タブでは、開いているウィンドウの位置・サイズ・表示状態をまとめて記憶し、タブを切り替えるだけで呼び出せます。「+」から配置を増やせるので、作業内容ごとに専用の画面を用意しておけます。
一度整えた配置は、アプリを閉じても保持されます。書く・見直す・仕上げる、それぞれの場面に合わせた「定位置」を作っておけば、毎回の窓の並べ直しから解放されます。
資料を手元に置いておく:本文の横で参照する
設定やプロットを練っていると、参考にしたい資料も増えていきます。取材メモ、参考画像、地図、用語の下書きなど。
「資料」ウィンドウでは、PDF・テキスト・Markdown・HTMLのファイルをドラッグ&ドロップで追加し、本文の横に並べて確認しながら書けます。Webページの内容をコピーしてそのまま貼り付けることもできるので、調べ物のページを、画像も含めてそのままの内容で保存しておけます。資料はフォルダに分けて整理したり、並べ替えたりもできるので、増えてきても迷わず取り出せます。
投稿する:サイトに合わせた記法へ変換
「投稿」モードでは、ルビや傍点などを投稿先の記法に変換できます。プリセットは、小説家になろう・カクヨム・pixiv・noteの4種類です。
左右に並んだ画面で変換前後を確認し、変換済みの本文を投稿先へ貼り付けます。「投稿サイトを開く」ボタンから、該当サイトへ移動できます。
別のサイト向けに書いた原稿も入力できます。たとえばpixivの記法で書いた本文を、カクヨム向けに変換する使い方もできます。
複数話を準備するときは、「見出しと投稿先を選んで保存」で、選んだ範囲を投稿先ごとのテキストファイルに書き出せます。
ルビを付ける:よく使う言葉は辞書に登録
ルビは、文字列を選んで指定できます。難読の名前が出てくるたびに、ルビ記法を手入力する必要はありません。
繰り返し登場する言葉には「ルビ辞書」が便利です。人物名や作品独自の用語を登録しておくと、同じ言葉に同じルビを自動で付けられます。辞書は作品ごと・作者ごとに保存、復元できます。
置き換える:見つけた表現を、活用ごとまとめて直す
気になる言い回しを直したいとき、「置換(語)」を使うと、活用した形までまとめて変えられます。辞書形を一つ指定するだけで、「〜ている」「〜た」「〜て」といった活用形も、対応する形へ自動的に変換されます。似た響きの別の動詞まで巻き込まれることはありません。
見つかった箇所は一つずつ一覧表示され、活用の種類もタグで確認できるので、内容を見ながら反映できます。単純な文字列の置換では起きがちな変換漏れや誤変換を抑えながら、語彙のばらつきをまとめて整えられます。よく使う組み合わせは辞書に登録しておけば、次に使うときも呼び出せます。
設定を確かめる:その場面では、どんな状態?
「この人は、まだ秘密を知らないはず」「この道具、前の話で渡していなかったっけ」。そんな確認に使えるのが、本文と連動する設定シートです。
たとえば『桃太郎』なら、旅立ちの場面では「きびだんご10個」。犬を仲間にした場面で数の変更を記録しておけば、その場面に移動したときには変更後の数を確認できます。人物だけでなく、場所や組織などの設定にも使えます。
「カード」モードでは、こうした情報をカードとして一覧できます。出来事が起きた「時系列」と、本文で語られる「叙述順」を別々に見られるので、回想の位置や出来事の前後を整理したいときにも使えます。本文中のカード用記述を直したら、「再解析」でカードへ反映します。
プロットを組み立てる:時系列と叙述順を行き来する
物語は「実際に起きた順番」と「読者に語る順番」が、ずれることがあります。回想シーン、時間を入れ替えた構成、伏線の後出しなど。
「カード」モードの「プロット」タブは、画面を左右に分け、それぞれへ「時系列(ストーリー)」と「叙述順(プロット)」を独立して表示できます。どちらも、カードを並べた「パネル」表示と、テキストでまとめて読める「概要原稿」表示を選べるので、見出しごとの構成をカードで確認したいときと、通して読みたいときとで使い分けられます。
時点は、ドラッグ&ドロップで時系列側・叙述順側の間を移動させたり、同じ側の中で並べ替えたりできます。一つの見出しに複数の時点を割り当てることもできるので、回想シーンのように、語られる場所と実際に起きた順番が一致しない構成も、そのまま扱えます。
推敲する:気になる箇所を見つける
「解析」モードでは、一文の長さや言い回しの偏りなどを確認できます。ら抜き言葉、同じ助詞の繰り返しといった構文チェックも用意しています。
一文の長さの基準や、推敲用の辞書などは設定で調整できます。会話文など、意図して使っている表現は「OK」にすると、その箇所の指摘を以降の検査結果から外せます。読み返す場所を探す手がかりとして使ってみてください。
表記を整える:小説の一般的な作法をまとめて適用する
段落の先頭を一字下げる、三点リーダーを「……」のように二つ続ける、ダッシュの表記をそろえる。こうした小説の一般的な作法に合わせて原稿を整えるのが、「ツール」モードです。
書いている間は気にせず進めて、投稿前にまとめて整えたいときに使えます。一つずつ探して直す手間を減らせるので、いつものエディタで書いた原稿の仕上げにも便利です。
変換候補は、変更前後を見比べながら確認できます。適用したい箇所に個別にチェックを入れることも、「全て適用」でまとめて反映することもできます。演出として残したい表記はそのままに、必要なところを選んで整えられます。
Web投稿のその次へ:PDF・EPUB・Wordへ出力
「印刷」モードでは、本文の文字組みに加えて、表紙、カバー、本扉、目次、奥付、著者紹介、章扉などを設定できます。紙の本にしたときの見た目を整えたいときに使う画面です。
用途に合わせて、次の形式で出力できます。
- PDF・JPEG:印刷用のデータとして出力
- EPUB:電子書籍として出力。縦書きやフォント埋め込みも調整可能
- Word:公募などの提出用に、書式を設定して出力
表紙やカバーなどは画像として個別にZIPへ書き出せます。デザイン設定も保存して別の作品へ持っていけるので、シリーズの装丁をそろえたいときにも使えます。
装丁をデザインする:表紙も扉も思うままに
表紙、カバー、目次、奥付、著者紹介、章の扉ページ。決まったテンプレートに流し込むだけでなく、タイトルや飾りの位置を、画面上で直接ドラッグして組めます。
罫線や飾り模様、背景画像も自由に配置でき、よく使う組み合わせはプリセットとしてまとめて呼び出せます。色や背景といった全体の雰囲気は判型の面ごとに共通しつつ、文字や飾りの配置だけを面ごとに調整できるので、装丁全体の統一感を保ったまま、細部を詰められます。
章の扉(小扉)は、見出しの階層(大見出し・中見出し……)ごとに、それぞれ別々のデザインを組めます。章ごとに雰囲気を変えたい作品にも対応できます。
読書モード:仕上がりを、本に近い形で確認する
「印刷」モードのその先に、仕上がりを実際の本に近い形で確認できる「読書」画面があります。そのときの判型や段組み、縦書き・横書きといった設定のまま見開きページが組まれ、ページをめくりながら読み進められます。
情報表示を消して没入できる全画面表示にも切り替えられるので、原稿というより「一冊の本」として読み返す感覚に近いです。JPEGとEPUB、どちらの見た目でも確認できます。
複数の作品を、同時に進める
書きかけの長編と、息抜きに書いている短編。並行して進めたい作品が増えると、どれか一つを選んで書くのでは窮屈になってきます。
「ファイル」メニューの「作品切替」では、保存済みの作品を一覧で確認し、切り替えたり削除したりできます。最終更新日時や行数も一緒に表示されるので、しばらく触れていなかった作品を見つけるときの目印にもなります。
作品ごとに完全に独立して保存されるので、片方をどれだけ書き進めても、もう片方には影響しません。気分や締め切りに応じて、開く作品を選べます。
段落単位で、書き直した跡をたどる
「あの表現、直す前はどう書いていたっけ」というとき、段落ごとに過去の内容を遡って確認できます。
背景をクリックして「段落変更履歴」を選ぶと、キャレット位置の段落について、これまでの編集履歴が新しい順に並びます。段落が削除されていた場合は「削除済」タブから、消える直前の内容を確認できます。
気になる履歴を選ぶと、その内容をクリップボードにコピーしたり、今の段落をその内容へ書き戻したりできます。複数の段落履歴ウィンドウを同時に開いておけば、離れた段落の書き直し跡を並べて見比べることもできます。
もう少し自分向けにしたくなったら
独自のパネルや操作を追加する「拡張機能」もあります。設定画面の「機能拡張」タブへJavaScriptを登録して使います。
自分でコードを書くほか、アプリからダウンロードできる「小説エディタ拡張プラグイン_AI開発指示書.md」をAIに渡し、欲しい機能を相談しながら作る方法も用意しています。
開発こぼれ話:ルビを面倒くさがったら、なぜか、こうなった
始まりは、私の作品を読んでくれている後輩の一言でした。
「新作、漢字にふりがなが無くて読みにくいっス」
それに「正直、ルビ振るの面倒なんだよね」と返してしまったのが、そもそものきっかけです。だったら、その面倒なところを何とかしてみようと思ったのが、最初の話でした。
ところが、自分の執筆作業を振り返ると、面倒なことはルビ以外にもあります。設定は表計算ソフト、本文はVSCodeエディタ、投稿するときはサイトごとに手直し。
複数サイトへの投稿機能も、自分が転載の手直しで息切れし、複数サイト投稿を辞めてしまった経験から生まれています。毎回ルビ記法を直すうちに、「ああ、めんどうだ。」となりました。
作っている途中では、Xで見かけた書き手のぼやきにも、よく足を止めました。「小説の作法ってなんだよ?」「資料を見るための画面切り替えが面倒」「登場人物が増えると呼称を覚えきれない」。どちらも心当たりがありすぎて、資料ウィンドウや関係マトリクスにつながりました。
印刷まわりも、同人誌や公募用の書式に苦労している人の話から広がりました。応募要項を見てみると、文字数と行数だけでなく、縦書きや段組みまで指定がいろいろあります。対応していった結果、Wordの出力設定だけで50項目を超えました。ルビを楽にしたかったはずなのに、ずいぶん遠くまで来たものです。
ファイル一つで動く形にしたのは、原稿と道具を手元に置いて使いたかったからです。知人が予告なきアカウント凍結で「500もの」イラスト作品を失ったことも、そのきっかけになりました。ブラウザで開くだけなら、保存したファイルを別のパソコンへ持っていくのも簡単です。
これだけ機能が増えても、名前はまだ「小説エディタ」です。公開するつもりはなかったので、テキトーな名前で開発をしていました。
ちなみに設定画面の最初には「アプリ名」という項目があり、好きな名前に変えられます。気に入った名前を付けてみてください。
あなたが、楽になったら。嬉しいです!
ここで紹介したのは、機能のほんの一部です。この記事ではとても紹介しきれないくらい、まだまだ機能があります。ルビを付けるだけ、投稿先に合わせて変換するだけ、EPUBを作ってみるだけでも使えます。いつもの執筆環境と組み合わせながら、手間のかかっているところで試してもらえたら嬉しいです。
まだ改良を続けているツールです。使ってみたい方は、こちらから小説エディタを開けます。